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kou1960

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ある出会い

生きることが嫌になり、私は1ヶ月もかけてこの旅のために準備をした。
仕事をきちんと辞めるにもある程度の時間は必要だったし、全てのものがその瞬間にぷつりと切れてしまう・・そう言う人生の終わり方をしたくはなかった。
私のその時の旅は、そう、死出の為の旅だった。

命がけで恋をした。
それは大袈裟でもなく、私は自分の全てを裕子にかけた。
裕子もそんな私に少しは好意を持ってくれたようだった。
短い、けれども充実した時間があった。
数ヶ月の間、私と裕子は確かに恋人同士の関係ではあった。春はずっと続き、人生に冬がくることなど、もうないとさえ、いや、冬の感触すら忘れてしまった私自身があった。
有頂天の日々が、ほんの少し行き過ぎだったのだろうか・・
裕子は突然、私の前から姿を消してしまった。

いや・・彼女が姿を消す少し前から、その兆候はあったのだ。
楽しくなさそうな、無理に笑顔を作っていそうな、けれども、私には彼女との関係を自分の中で否定することも出来なかったし、裕子に直接訊ねるなどと言うことも出来なかった。
一度、映画を見に行き、裕子が泣いていることがあった。
そんなに悲しいドラマではなかったけれど、裕子の目の回りは赤く腫れ上がっていた。
「悲しかったの?」
「ううん、感動しただけよ」
彼女は作り笑いで答えてくれた。
そのあと、私達は居酒屋へ行った。
何杯かの酒を飲んだ後、彼女は急に居住まいを正して、こんなことを聞いてきた。
「ね・・信夫さん、本当に私と結婚したい?」
私はどう答えてよいかわからず、ただ「もちろんだ。他のことは考えられないよ」やっとそれだけを言った。
彼女はその時、クスリと笑って、一瞬だけ淋しそうな表情をした。

それからまもなくだ。
裕子は誰にも何も告げずに私達の街から姿を消してしまった。
ただ、私にあてた手紙が数日後に届いた。
それにはただ、詫びる言葉と、探さないで欲しい、自分はある男と元気で暮らしていると言うこととが書かれてていて、消印は札幌の郵便局になっていた。

私はそのことがあってすぐに、仕事でも大きなミスを仕出かしてしまった。
私の仕事はホテルやレストランに食肉を納品することだったが、そのとき、仕入れた食肉のチェックが充分ではなく、布切れのようなものが大量に混ざりこんだものが納品されてしまったのだ。
一切は私の責任だった。
一部の取引先からは今後の取引を中止されると言う事態に、私は自ら退職するしか責任のとり方を知らなかったのだ。

自分が青春の全てをかけてきたものが崩壊していった。
私はこの先、どのように生きようとも、今まで程の希望を味わえる人生があるとも思えず、ただ、時間をかけて、裕子のいる町への旅をし、そこで果てることに決めていた。
それは確かに裕子へのあてつけであり、裕子を愛していることの最後の表現だった。
女々しいと言う人があるだろう。
女一人、仕事一つくらいでなんだと言う人もあるだろう。
けれど、全てをかけてきたものが崩壊してしまった今、私の存在が認められる社会はどこにもありえない・・その気持ちがわかる人がどれほどいるだろうか?

仕事のけりをつけ、私はようやく北へ向かう列車の旅にでた。
自分の人生への思いを、時間をかけて少しずつ、捨てていきたかった。
私の旅は、まずは私たちの生きてきた町の近くを走る快速電車の終点へ向かうことから始まったのだ。
朝の電車は混んでいた。
ようやく大阪をすぎる頃から空き始め、私は京都の手前で席に掛けることが出来た。
その頃から、私には気になることがあった。
大阪の手前くらいから乗っていたであろう、10歳くらいの少女がまだ乗っていたのだ。
誰か大人と一緒にいるわけでもない少女は明らかに電車の中で浮いた存在だった。
人々は好奇な目で少女を見るけれど、誰もかかわりあおうともしなかった。
少女は通勤ラッシュの電車の中で気丈にしっかりと立ち、やがて、私の隣の席に腰掛けた。
大きなリュックサックを背負い、一心に前を見つめていた。
「かわろうか?」
私は窓側だったので少女に声をかけた。
少女は驚いたように私を見たが、やがて「ありがとうございます」とはっきりと礼を言い、私と席を替わった。
少女は今度は窓の外を一心に見ていた。
何か声をかけようかと思った。
どこへいくの?どうして一人なの?学校は?
けれども、少女のきりりと結ばれた口元には明確な意思が出ているような気がして、気になりつつもそのままにしていた。
いつしか私は眠ってしまっていた。
列車の走行する音と裕子の声が重なって聞こえてくるような夢を見ていた。
早く殺してくれ・・こんな苦しみはもうたくさんだ・・
そう叫んだ時、我にかえった。
「おっちゃん・・大丈夫なの?」
隣に座っていた少女が私を見ていた。
「俺、何か叫んだかな?」
首や背中に汗がたまっている感じがする。
「早く殺してくれ・・って」
少女は驚くほど大人びた表情をしていた。
「ここはどこだろう?」
「もう、彦根をすぎたところよ」
列車は緑の田圃の中を快走している。
私はこの少女と会話の機会が出来たことに気がついた。、
「君は、どこまで行くの?」
さっきの夢のせいか、肩が痺れる。頭が少し痛い。
「おっちゃんは?」
顔を見合わせた。
「俺かい?どこまでもずーーっとだ」
「ずーーっと、電車に乗るの?」
「そう・・」
「でも、この電車、米原までしか行かないよ・・米原についたらどうするの?」
「乗り換えて、ずーーっとだよ」
「へんなの・・私はオワリイチノミヤってとこまで」
「名古屋の近くの?」
「そう!知ってるの?」
「場所だけはね・・どうしてそんなに遠くまで行くのかな?」
「お母さんがいるんだ。わたし、今度からお母さんと暮らすんだよ」
少女はそう言って、窓の外を見た。
あどけなさの残る少女にどんな人生のドラマがあるのか、私はかなり気になってきていた。
列車は操車場のようなところで速度を落とし始めた。
車内放送が終着駅であることを告げている。
私はここで北陸線に乗り換える予定だったが、どうせ急ぐわけではない旅だ。少女と同じ方向に行くのも良かろうと考えを変えた。

米原駅では次の名古屋方面の電車まで少し時間があるようだった。
「おっちゃんもこっちなの?」
「うん・・俺の行き先はずっと向こうだから、一宮も通るしね」
「ホント?うれしい・・わたし、心細かったんだよ」
わたしはホームのスタンドで少女とうどんをすすった。
身体が温まる。食べるものが美味しいと感じるのは何ヶ月ぶりだろう・・
「そういえば、君の名前聞いてなかったよね」
「おっちゃんも自分の名前を言ってないよ・・」
そう言って少女は笑い出した。この年頃に特有の、天使の笑顔だ。
「じゃあ。俺から・・信夫だ」
「わたし・・沙里奈・・よろしくね」
少女は愛くるしさをさらににじませ、そう言って、またうどんをすすっている。

わたしはこの旅の間中、裕子のことを思い続けることにしていた。
けれども、不思議なことに沙里奈と出会ってから、裕子よりもこの少女が気になりだした。
裕子が私の頭の中から跳んでいってしまった・・その実感を味わうのが不思議だ。
名古屋方面、浜松行きの快速電車はたったの4両編成ではいってきた。
私と少女は座席の向きを変え、進行方向に並んで座った。
「沙里奈ちゃん、お母さんのところに行くんだよね」
「うん・・さっき言ったでしょ」
「確かに・・聞いたよ。じゃあ、君は今まで、どなたと暮らしていたんだい?」
少女は走り始めた電車の車窓を見ながら、窓に向かって答えた。
「始めはお父さんと・・その前はお父さんとお母さんと一緒に・・でも、お父さんがお母さんと喧嘩して、リコンしちゃったのね。それからお父さんと・・でも・・お父さんがどこかへ行っちゃって、それからはおばあちゃんと・・」
「お父さん・・どこかへ?」
「うん・・帰って来なくなっちゃったの・・3年のときよ」
「沙里奈ちゃん、今、何年生?」
「5年生よ・・」
「じゃあ、おばあちゃんと2年暮らしたの?」
「うん・・」
「どうしてお母さんのところへ行くの?」
電車は山の中を、車輪を軋ませて走っている。乗客は少なく、車内は車論の音と、どこかが軋む音ばかりが拡がる。
「おばあちゃんが、年をとってしまって・・老人ホームに入るんだ」
私は、少女の話を聞きながら、少しずつ、自分が情けなく思えてきた。
私はこの5年生の少女と、同じような苦しみを味わったことがあるだろうか・・
もしも、今の私がこの少女のような苦しみを受けたとしたら、何回、自殺をしなくてはならないのだろうか・・
伊吹山が見える。
秋の野山が美しい。
「お母さんに会いたいかい?」
「うん!」
「お母さんはどこまで迎えに来てくれるの?」
「駅って言ってた」
「電話で?」
「うん!」
少女は私のほうを見てくれた。涙がにじんでいる。
「大変だったね・・辛い思いをしたんだね・・」
「そんなことないよ・・でも・・ちょっと淋しかった」
本当はこの子はここで大泣きしたいに違いない。けれども、背筋をピンと伸ばし、涙をこらえている様子が私には、辛かった。
私は話題を変えることにした。
好きなアニメは?
どんな食べ物が好き?
少女は急に話題を変えても、きちんとそれに答えてくれ、列車が岐阜につく頃には笑顔も出るようになっていた。
岐阜を出ると次が尾張一宮だ。
「次だね」
「うん・・ありがとう・・」
心なしか不安そうに見えた。
「お母さんと楽しく頑張れよ!」
「うん!」
少女は座席から通路に出てドアの前に行った。
「おっちゃんも、ノブオさんも、頑張ってどこまでも行ってね!」
そう言ってくれたけれど、目にはやはり涙がたまっていた。
私は思い切ることにした。
少女が母親に会うまで、その時までついていてやろう・・そう思った。
荷物を下ろし、ドアの前まで行く私を少女は不思議そうに見ていた。
「おりるの?」
「うん、沙里奈がお母さんときちんと会うまで、一緒に行くよ」
少女は涙目を見開いて、「ありがとう」と言ってくれた。
私の旅は途中下車でもなんでもできる・・電車がホームに入った。
少女はホームにいる人に目をこらす。
ドアが開いた。
少女が降りて、私も続いた。
「お母さんは来てるかい?」
少女はあちらこちらに目を配り、やがて、がっかりとしたように立ち尽くした。
ホームの乗客たちは忙しそうに動いている。
反対側のホームを貨物列車が通過していく。
別の方向には名鉄の電車が止まっている。
構内放送が響く。電車の種別や行き先を繰り返し放送している。
電車が行ってしまった後、少女と私は人気のなくなったホームに取り残された。
「お母さんがいない」
少女が口元をきっと結んで涙をこらえている。
「沙里奈ちゃん、駅員さんのところへ行ってみよう・・お母さんも君を探しているかもしれないよ」
少女は返事もせず、私についてきた。
やがて、少女が私の手を握ってきた。
暖かい手だった。
私は階段を下り、駅務室へ向かおうとした。
改札口の近くまで来た時だ。
「沙里奈!」
女の声がした。
小柄な細身の、私と同年代くらいのスーパーの制服のようなものを着ている女性が少女を呼んでいた。
「あ・・」
少女は一瞬、立ち止まった。
私の手を振り解き、改札口の外へ走り出ようとした。
駅員が少女に声をかける・・「あ・・切符!」
少女はお構いなしに改札の駅員の横を通り過ぎ、女の方へ向かった。私は少女を見失わないように、後を追い、駅員に「ちょっと事情で、すぐに切符を持ってくるから・・」そう言って、二人の方へ向かった。
母と子は人込みの中で抱きしめあっていた。
私はその近くで、立ったまま泣いていた。
母子も泣いていた。

私は今、名古屋近郊の運送会社で働いている。
それからまもなくして、沙里奈の母親と結婚をしたのだ。
生きることの不思議さを日々実感し、毎日を楽しく送っている。
もし、あの電車の中で沙里奈と出会わなければ、私は間違いなく北海道まで行って、裕子が男と暮らしている町の近くで死んでいただろう・・そう思うと人生の不思議さ、人の縁の不思議さを思わずには、いられない。
一つだけ困ったことがある。
それは沙里奈がいつになっても私を「お父さん」と呼ばず、「おっちゃん」と呼ぶことだ。
それもある意味、私たちが出会ったそのときのことを思い出させてくれるから、とりあえずはそれで良いと思ってはいるけれど、他人の前で「おっちゃん」と呼ばれるのだけは、なんとかしたいとも思う。
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