無料レンタル FC2 Blog Ranking story(小さな物語) 2007年11月

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kou1960

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小説専門のブログです。
小説の形を借りて自分史も入れたりしています。
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悪酔い


なんだか、目が回る。
少し呑みすぎたか・・

歩道が曲がって見える。
信号機の赤色が二重にも三重にも見える。
俺は、何だかわけの分からない方向へ導かれていく。

そう言えば、さっき、タクシーに乗った筈だ。

だったら、何故俺はここを歩いているのだ?
見た事もない、町の景色。
夜だから分からないのか、それとも元から知らない町なのか?

タクシーから降りたのは・・何故だ?

店のママがタクシーを呼んでくれた。
「この人、すごく酔っているから」
そういって運転士に話しをしていたのは覚えている。

俺にはそれが気に入らない。
酔っていようが、何だろうが俺は俺だ。

「お客さん、どちらまでお送りしましょう」

慇懃な運転士の言葉にも腹が立った。

「どこでもええわいな!」
「いや、それでは困ります。行き先を言って下さらないと」
それで、ますます腹が立った。

何故、腹が立ったのかもよく分からない。

「ほな!真っ直ぐ行けよ!」
そう叫んだ。

タクシーは走り出した。

何度か「真っ直ぐで良いですか?」
と聞かれた。
何度も聞くので、頭に来た。
「じゃ、そこ右に曲がれ!」
「右ですね」
車が曲がる。

その曲がり方が気に食わない。
「左じゃ!ぼけが!」
「左ですか?」
そう言いながら、運転士は素直にUターンする。
その素直さにも腹が立つ。

「こんなクルマ、乗ってられるかい!」
自分でドアを開け、外に飛び出した。
転んだような気がする。

「何をするんですか!」
運転士が叫ぶ。
「やかましい!お前が気にいらんのじゃ!」
俺は、叫びながら走った。

あれでは、乗り逃げだよな・・
あの運転士に悪い事をした。

なんであんなに腹が立ったのか・・よく分からない。
よく分からないが今も俺は泥酔している。

あの店・・あのママの雰囲気がいけないのだ。
あのママのおかげで、俺は悪酔いしたんだ。

始めて入った店だった。
既に少し呑んでいた俺の目に、あの店のオレンジ色の看板が優しく思えた。
店に入り、他に3人ほどの客が居るそのカウンターの向こう、あのママが居た。

水商売の女にしては素人っぽくて、上品な雰囲気だ。
だけど、俺が驚いたのは、そんなことではない。
その雰囲気が祥子そっくりだったからだ。

話し方も、クスリと笑うその仕草も、じっと見つめる大きな目も。

違う事といったら、祥子はあんなに胸が大きくはなかった。

ママは大きな胸をすっかり包み隠すかのように、地味な服装をしている。
それがかえって色気を引き立てる。

俺はママを飽くことなく見つめていた。
「そんなに、私を見つめて・・なにかついていますか?」
少し恥ずかしそうにママが聞いて来る。
「いや・・きれいだな・・と思って」
普段なら絶対に口にしないだろう・・そんな言葉を吐いてしまう。

酒を飲むピッチは早く、ママと祥子が重なって見える。

「俺、昔好きだった女がね・・ママと似ているんだ」
「あら・・嬉しい事を・・」
最後の言葉を濁すところも祥子だ。

けれど、ママは祥子ではない。
胸の大きさはどうだ。

それに祥子はナースであってスナックのママではない。

歩いているうちに、海岸に出た。
潮風にひかれて本能的に海岸に出でたのかもしれない。

前にある海。
沖の船。

風がやや強く俺にぶつかっていく。

透明な世界。
漆黒の世界。
テトラポッドにぶつかる波の音。

情けない事だ。

俺には妻子もある。
だのに、昔の女が忘れられないなんて。

会いたい・・
どんなに言われようが会いたい。
噂では祥子は今も独身だという。

おまえと別れて20年・・
おまえと付き合っていた数年をはるかに上回る時間が過ぎていった。

俺は妻や子を愛している。
だのに、あいつと会いたい。

矛盾している。
矛盾しているよな。
俺という人間はおかしな人間だよな。

テトラポッドの上に横たわる。
寒さは感じない。
頭の中はぐるぐる回る。
星空が広がっている。

祥子!
会いたい!
会って、どうするでもなく、ただ会いたい。

俺のような優柔不断な人間をおまえは嫌うだろうな。
でもな・・会いたいんだよ。
おまえの屈託のない笑顔が頭の中に出てくる。
おまえの優しい表情が俺を苦しめる。

酒が回る。
涙が出てくる。
俺は空を見たまま、大泣きしている。

おまえの事を思い出したのは何年ぶりだろう。
あのママの雰囲気にさえ出会わなければ、俺はおまえを思い出す事はなかったのに。

神様がこの世にいるのなら、おまえに会わせてくれ!

「おっさん、おっさん」
誰かの声がした。
「こんな所で寝とったら、風邪ひくで」

目を開けると釣竿を持った男らしいシルエットが俺を見下ろしている。
「寒うないか・・大方、酔っとるんやろうけれど」
「ああ・・」
やっと俺は、返事のような、うめきのような声を出して男に答えた。
「なんやしらんが、女の名前を呼びおったな・・会いたいんやったら、会いに行かんかいな」
「名前を呼んでいましたか」
「ああ・・ショウコ、会いたいって・・ずっと言うとったな」

「今・・何時ですか?」
「4時過ぎやけどな」
「ここは・・どこですか?」
「場所もわからへんのかいな・・舞子の海岸やがな」

酔いは、かなり覚めているようだった。
俺は、起き上がり、起してくれた男に礼を言って歩き始めた。
「おっさん!会いたいんやったら、早よ、会いに行けよ!」
男の声が追いかけてくる。

俺は軽く手を振り、海岸から離れた。

海岸から幾らも歩かないうちに、国道らしい道路があった。
まだクルマがたくさん走る時間ではないが、それでも、何台かのクルマが通過していく。

タクシーが来るのを見つけた。
俺は手を挙げ、タクシーを停めた。
「須磨区の○○町まで」
俺の言った行き先は、俺の自宅の方向だ。
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