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kou1960

Author:kou1960
小説専門のブログです。
小説の形を借りて自分史も入れたりしています。
もとよりアマチュアですし、たいしたものは書けませんが、楽しんでいってくだされば幸いです。FC2 Blog Ranking


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消える日


今日、僕は由貴に会うために舞子駅から電車に乗った。
よく晴れた午後、サービス業の僕は平日に休みが貰えるし、僕の彼女である由貴もまた、デパートの販売員だから同じような曜日に休めることが多いのだ。
由貴とは快速電車の2両目の車両で落ち合うことになっていた。僕は舞子駅から、彼女は新長田駅から普通電車に乗り、更に兵庫駅でこの電車に乗ってくるはずで、あとは大阪ででも散歩をしようというものだった。
電車に乗る前、ホームの上空を戦闘機のような飛行機が飛んでいくのが見えた。

午後の快速電車は空いていた。
8両編成のニ番めの車両の一角に空いているボックスを見つけて、僕はそこに座った。電車が走り出すと車窓からの海がキラキラしてとてもきれいだ。
海の上をまたジェット機が東へ向かって飛んでいった。
須磨海岸の、海が車窓いっぱいに広がる。今日はお天気も良く、電車も空いているからリラックスが出来る・・そう感じていたとき、いきなり東の空がオレンジに染まった。
電車はちょうど、大阪や堺の町が見渡せるところを走っていた。
大阪の町のほうに大きなキノコ雲が上がった。
電車は停車した。車窓には海が広がるけれど、空の色が少し変わり始めてきていた。
「何が、起こったんだ?」他の乗客の声がする。
反対側の車窓を見ると、クルマは何時ものように流れている。けれども国道の向こうの山陽電車の線路上でも電車が停車していた。
空はにわかに掻き曇り、海にも波が立ってきた。電車の窓は開かないから、外の様子はガラス越しに見えることしか分からない。空調も止まってしまったらしく、車内はやけに静かになってしまった。
雲の中でも雷のような光るものが時折見える。
「あれは何だ!」
誰かが叫んだ。海が盛り上がってこちらへ迫ってくる。
津波!そう感じた次の瞬間、電車は波に呑まれた。車体が大きく揺れた。空調やドアのところから容赦なく水が飛び込んでくる。
僕はとっさに電車の壁に身体をくっつけた。車体が横転する。僕は車体から剥がされるように落ち、反対側の座席のほうへたたきつけられた。そこにいた、誰かの上に乗ってしまった。
海の水がシャワーのように入り込む。

気がつくと、水は引いていた。
僕の下には人が居た。
「苦しい・・どいてくれ・・」男だった。
僕はゆっくりと体の異常がないかを確かめながら、立ち上がった。男もゆっくりと立ち上がってきた。
「津波ですか?」
僕がそう言うと、「空が変や・・」男が答えた。この電車は完全に水没はしなかった。あちらこちらで乗り合わせたほかの乗客たちが立ち上がってきた。電車の部品やガラスの破片でけがをした人も居るようだった。
外に出なければ成らない。窓が頭の上にある。
空は真っ黒な雲に覆われているようだった。電車の座席を踏み段にして、先ほどの男がドアを触ろうとしている。
けれども、ドアには手が届かない。横転した車体では出入り口には足を載せるものが何もないのだ。
「駄目か・・」男はつぶやいて車内を見渡した。
僕も車内を見渡した。ふと、車両の端から光が漏れていることに気がついた。
隣の車両との連結面にある幌の部分だった。いくつかの座席の背もたれや肘掛を足がかりに、そこへ近づいてみた。ちょうど、連結面にある扉は下のほうに引っ込んだままになって、幌が破れ、そこから出られそうだった。
「ここならいけそうですよ・・」
僕は男や他の乗客に聞こえるように言った。
何とか幌の破れ目から外に出ることが出来た。
国道ではクルマが軒並み横転していた。仰向けに成っているクルマもあった。電車の屋根の向こうには電車より大きな船がひっくり返っていた。
人々が外に出てきて騒いでいた。クルマの下敷きになっている人も居る。
線路の上で電車が横たわっている姿はあの、神戸の大地震で見て以来だ。そのときも船が線路に上がる事はなかった。
泣き声が聞こえる。亡くなった人も居るのだろうか・・
僕は、神戸の大地震の日、なかなか警察や救急が来なかったことを思い出した。
しかし、何故、大阪湾で津波が起こったのだろう、あの、オレンジ色の光は何だったのだろう・・
僕は由貴に会わなければならない。彼女はどうだったのだろう・・携帯電話を取り出してみた。
ポケットに入っていて、水に完全に浸かったようには見えないけれど、どのボタンを押しても何の反応もない。
線路を歩くことにした。線路の上では電車がまだ何本か横転していた。
どの電車からも乗客たちが外に出て騒いでいる。しばらく進むと住宅が見えた。住宅も壊れているものがたくさんあった。
船が突き刺さっている住宅もあった。
僕は何より由貴の無事な姿が見たかった。
線路を半ば駆け足で歩く。津波の影響は市街地に入ればそれほどでもないようだった。
床下浸水程度で収まっているところもあった。
空はますます暗い。雨が降りそうだ。
鷹取駅が見えてきた。ここでは新快速電車が脱線もせずに停車していた。
「線路を歩かないで下さい・・危ないですから」
停車している電車の運転士らしき人が僕を呼び止めた。
「電車は動かないでしょ。少なくともここから西は・・」
僕の答えに運転士はむっとしたようだった。
「津波で電車が転覆していますよ。須磨駅のあたりで何本か・・」
「嘘を言うな・・」
「本当です。知らないのですか・・」運転士は黙ってしまった。
そのとき、僕の後ろから同じように歩いてやってきた人たちが後ろのほうに見えた。運転士は何も言わずそっちの方向を見るだけだった。

僕は停車中の電車の脇を通り過ぎた。僕を見て、ホームにいるほかの乗客たちも線路に下りて歩き始めた。
空はますます暗く、ついに雨が降り始めた。
すすが混じっているかのような黒い雨だった。雨はすぐに強くなり、土砂降りになってしまった。黒い雨はやがて、普通の雨の色になった。
線路は高架になっていて、付近の町が津波で水浸しになっても、ここだけは関係が無いかのようだ。
このあたりでは水はまだ引かず、まるで湖に家が浮いているかのような景色だった。更に歩くと、新長田駅へ続く坂になる。
線路の枕木の上は歩きにくい。息が苦しくなる。
雨はまだ降っていた。
貨物列車が停車している。機関士がドアをあけて、出入り口に腰掛けている。僕を見ても何も言わなかった。
新長田駅のところにブルーの電車が停まっているのが見えた。
もしかして・・僕はとっさにそう思った。
線路を歩く僕の足が速くなった。もしかしたら、彼女が、由貴がまだここにいるかもしれない。新長田駅のホームが近づいてきた。
ふと、線路の下を見ると、湖のようになった、町の中で水に浮かんでいる人がたくさん見えた。死んでいるのだろうか・・
地下街や地下鉄の駅にいて、あの津波を受けた人たちだろうか・・ヘリコプターが飛んでいる。ジェット戦闘機も飛んでいる。
津波からすでに1時間が経とうとしている。
そろそろ何らかの救援部隊が来てもいいころだ。それにしても警察は何をしているのだろう。パトカーのサイレンも聞こえない。
新長田駅に入りかけたところに青い普通電車が停車していた。
ホームには人が溢れている。
僕はホームに上がり、人ごみを掻き分けて前のほうへ進んだ。由貴・・生きていてくれ!そう願いながら・・
ホームの前のほうへくると人々はホームの先に集まっていた。
ここからは結構遠くまで見渡せる。いつしか雨が上がっていた。
「シンジ!」
由貴だ!僕は声のほうへ走った。由貴がそこに立っていた。
「無事でよかった!」僕は彼女を抱きしめた。

東の方向は真っ暗である程度から向こうは何も見えなかった。
僕たちは手をつないで、東の方向を見ていた。
灰色の雲に覆われた空には何機ものヘリコプターが飛んでいる。ジェット戦闘機も上空を行き来している。
何があったのだろう・・
寒くなってきた。
由貴が僕の手を握る力が強くなってきた。彼女も怖いのだ。
ホームにいる人々も、不安のまなざしを空に向けている。
赤ん坊の泣き声がする。
そのとき、明らかにミサイルか何かのようなものが北の方向から、東の、三宮のあたりへ尾を引いて落ちるのが見えた。
オレンジ色の光があたりを包み込む。
風が強く吹いてきた。

**********

20XX年、秋、東アジアにあって、独裁を続けていたJ国に痺れを切らしたB国は核を飛ばした。
正確に首都を狙ったが、状況を察知していたJ国の指導者達はR国との国境付近に逃げて無事だった。
報復はB国にではなく、同盟関係で、かつ、直接国境を接していないこの国に対する核ミサイル攻撃で行なわれた。
核ミサイルは3発発射され、最初の1発は大阪に、2発めが神戸に、そして3発目は若狭湾に着弾した。
東京を狙わなかったのは交渉を有利にするため、この国の首脳を生きさせるためだった。
全面核戦争の危機だったが、なぜかB国はJ国と国境を接するT国、大国のR国、C国との間でこれ以上の攻撃はお互いに不要との取り決めを作っていた。全面核戦争は回避されたが、関西とJ国の首都を中心に500万人以上のの死者を出し、、今後数十年はその場に立ち入れない広大な放射能汚染が、永く人類を苦しめることになった。
日本は関西一帯を消失させられ、東側をR国、西側をB国、南部をC国が統治する事になった。
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雷の夢


秋、僕は須磨の山を散歩していた。
須磨浦公園駅からロープウェイの脇の急勾配をゆっくりと登ると、やがて岩場に出て、ここから眼下に海が開ける。
青い海、緑の山、対岸の淡路島、そして目を移せば神戸の市街地が巨大なパノラマになって拡がる。
都会のすぐ近くにこのような散歩道があることを、僕は素直に感謝した。
汗が出る。最初の鉢伏山はたかが240メートル程の山の高さだが、45度にもなる急勾配はきつい。
もうすぐだ・・もうすぐだと山を登る。
時折、眼下に目をやる。そうすることで自らの登ってきた高さが実感できる。
息は切れるが気持ちが良い。

ロープウェイの山上駅を通り過ぎ、そのまま進むと遊園地に出るので脇道へそれた。
うっそうとした森林が気持ちよい。勾配はもうなく、しばらくは軽いアップダウンの尾根道が続く。
鉄拐山を過ぎ、まもなく高倉山の造成地に出るはずだった。
ここは山を削って住宅地にした後、その山肌を簡単な公園に整地したところだ。
森を抜けるとその「おらがやま」公園だ。

そのとき空が曇ってきた。
それもにわかに掻き曇るような、急な天候の変化だった。
空は見る見る真っ黒になり、雷が鳴り出した。稲妻も見える。
しまった・・僕は傘を持ってきていなかった。天気予報もチェックできていなかった。近くの木の下で雨が上がるのを待つしか仕方がなかった。
雷の音が近づいてくる。稲妻もはっきりと見えるようになってきた。雨がひどい。土砂降りだ。
腹を決めた。少なくとも、雷が遠りすぎるまで、じっとしていよう・・別に濡れてもかまわない・・
強烈な稲妻の光があたりを包む。頭の中で雷の爆音がする。

気がつくと雨が上がっていた。
稲妻に気を失っていたのだろうか・・とんでもない散歩になった・・そう思い、歩き始めた。爽やかな風が吹いてくる。
懐かしいしっとりとした空気が僕を包み込む。
鳥の声がする。
けれど、いくら歩いても公園には出ない。このあたりに禿山になってしまった公園があるはずだった。
尾根道が続く。
海が見える。きれいな青い海だ。今日は船がいない。
とんびが飛んでいる。尾根をゆっくりと歩いた。道を間違えたのだろうか?
それにしても静かだ。
鉄拐山から道を間違えて進めば、須磨寺に出るのだろうか・・第二神明道路にぶつかるのだろうか・・そう思いながら歩く。
だが、尾根が続くのはおかしい・・そのうちに尾根道のまま登りになった。登りきって、南を見た。
山と、田畑らしい緑があって、その向こうは海だ。
海辺は白い砂浜と松林らしい緑の帯・・僕はわけがわからなくなった。
・・そう、町が見えないのだ。神戸の須磨あたりの町が全く見えないのだ。第一、この山はなんだろう?
団地は?公園は?
空気が澄んでいる。風はあくまでも爽やかだ。

「あんた、こんなところで、何をしてるのや?」
山を登ってきた老婆が僕に声をかけた。異常な服装だ。
時代劇に出てくる百姓女の服装をもっと汚く、だらしなくしたような格好だった。
「ここはどこですか?」
老婆も僕の姿をみてギョッとしたようだった。
「ここは・・高倉山やけどなぁ・・あんた、どこからきやはったのや?」
・・高倉山・・じゃあ、団地のところではないか・・
「あんたも、はよう逃げな・・こんなとこにおったら織田にやられてしまうでな」
・・オダ?・・なんのことだ?
どやどやと人の声がした。
やがてその声が姿をあらわした。大勢の時代劇の格好をした、それもかなり薄汚い連中だった。男、女、子供、老人、十人ばかりが僕の目の前にやってきた。
「こいつは、なにもんや」「織田の侍かいな?」「変な格好やなぁ」
口々に騒ぎ立てて僕をじろじろと見る。汗の臭いが拡がる。
「織田の侍やったら、やってしまわんと・・」
老人がそう言うと、若い男がカマを僕にめがけて振り下ろそうとした。
「まってくれ!サムライって・・何のことや!」
僕はとっさに身をかわし、彼らから少し離れた。
「侍とは違うのかいな・・」「いや、信じたらあかんぞ!」「この際やってしまおうや!」
口々に物騒な言葉が出る。僕はこの連中に殺されかねない。身の危険を感じた。
「ほっとけ・・はよう行かな・・下畑やったら、べっちょうないで・・」
最初に僕を見つけた老婆が、他のものをたしなめるように言った。その隙に僕は彼らの来た方角へ走った。
「あんた、村のほうへ行ったら・・織田が来るで!」
老婆の声がしたが、殺されてはどうにもたまらない。僕は尾根を走った。
すぐに下り坂になった。一番下ったところで山道が十字に交わっていた。今のまま、まっすぐ進むとまた山を登る。
交わっている別な道を右に行くと、山を降りて海の方へ行くようだった。
左に行くと、その先に大きな池が見えて、もっと山の中に入っていく感じだった。
海のほうには煙が見えた。
僕は今の道をそのまま、まっすぐ進んで山を登るほうを選んだ。
すぐに頂上らしきところについた。視界は開けるが相変わらず神戸の町は見えない。海と反対の方角を見ると、山がずっと続いて、時折、池や田畑があるような景色だった。
須磨ニュータウンはどこに行ってしまったのだろう?
誰も追って来るものもなく、僕は頂上を過ぎ、いったん森の中に入って、そのまま道を進んでいた。
また登り坂になった。岩が多い。
けれどもこちらもすぐに頂上になった。頂上には木がなく、岩場の見晴らしのよいところだった。
・・あれ?・・岩場から岩場へ続く道が見える。
そこから先は岩場が広がる荒涼とした景色だ。・・この景色は・・
僕は愕然とした。
ここは横尾山に違いがなかった。須磨アルプスの名所だ。
ということは僕は、須磨の背山を縦走する道路をそのままに歩いてきたことになる。けれども・・どこにも団地やニュータウンは見えていない。僕がさっき、何人かの人間と出会った場所は高倉山団地のある場所のはず・・
岩山の頂上から周りを見渡した。
海が見え、山が広がり、田畑が見える。
反対側も、山と谷と池と田畑くらいしか見えない。空気はしっとりと、懐かしく、地形はあくまでも・・その先に見える鷹取山も、神戸そのものだ。
もしかして・・僕は岩場を慎重に下りた。何時もならある階段もロープもない。
ゆっくりと岩を下り、谷あいに出た。
小さな泉が湧き出している。
やっぱリここにあった・・僕は泉に口をつけて水を飲んだ。辛い、この山の味がした。
ここが間違いなく、須磨アルプスと呼ばれる須磨の背山であることを確認できたけれど、何かが狂ってしまっている・・時間が、時代が・・
僕はどうなったのだろう・・
鳥のさえずり、風で木の葉が揺れる音、かすかな水の音、何がなんだか分からず、僕は泉から湧き出る川に沿って歩いた。すぐに森の中に入った。僕の知っている須磨の背山の感じそのものだ。ただ、木々の形や大きさが違う。
少し行くと粗末な小屋があった。
小屋の前に座っている女がいた。赤みを帯びた粗末な着物を着ていた。
「ここは・・須磨ですか?」
僕の問いかけに女はびっくりしたように後ずさりした。
「すみません・・僕は怪しい者ではありません・・」
女はそれでも、警戒を解かず、小屋に自分の背を押し付けて、僕を睨み付けていた。
「あの・・そうだ、僕はサムライではありません」
女は少し警戒を緩めたようだった。
「刀は持っとらへんのやな」初めて女が口を開いた。
僕は大袈裟に両手を広げた。女はじっと僕を見つめていた。
若い、まだ少女の年頃ではないだろうか?
すすけた顔、痛んで汚れた髪をきちんとすればかなりの美人になりそうだった。

「織田が来たんや・・うちらは飛松村におったんや・・」
女はそう言った。飛松?聞いたことがある・・このあたりの地名だろうか?
「織田って・・あの・・織田信長の織田ですか?」
「そうや・・おまえ・・何も知らへんのやな・・」
中へ入れ・・女にそう言われて僕は小屋の中に入った。小屋の中は明かりがなく、薄暗い。
「一の谷まで織田の奴らが攻めてきよった。うちら、何もしとらへんのに・・」
僕は歴史の授業で習った織田信長を思い起こしていた。信長といえば、中世の英雄で安土城を作り、比叡山を焼き討ちし、明智光秀に殺された・・それくらいしか思い出せなかった。
「ここは安全なのですか?」
女は首をかしげた。
「おまえは何か訳の分からぬことを言うの」
安全・・それに代わる言葉・・どうやら彼女に分かるように言葉を使わないといけないらしい。
「ここは、べっちょうないか?そういうことや」
思い切って関西弁で喋ってみた。
「ここかいな・・わからんわ。織田は人を見たら首を刎ねるさかいなぁ・・」
「なんで?」
「荒木はんが織田を裏切って、須磨寺もそっちについたさかいや・・ほんまに知らへんのやなぁ」
そう言いながら、ええもんがあるわ・・女は僕に何かを投げてよこした。
「食いなよ」
目を凝らすと何かの干し肉のようだった。女は自分でもそれを齧った。僕も齧ってみた。固い。
「何の肉や?」
「たぶん・・鹿やな」
噛むと少し味が出てきた。けれども臭い肉だ。
この時代の人間は肉を食べるのだろうか?僕の思いとはかかわりなく、女は一心に肉を齧っていた。
「あんた・・名前は?」
「え・・僕かい・・巧一・・」
「コウイチ・・変な名前やな。まあええわ。うちはタキや」
「タキ・・あの川にある滝かな?」
「おかんが、山仕事しとって、滝のそばで産気づいたらしいわ・・そやからな」
「おもろいな・・その名前・・」
そう言うと女も笑った。

その日は僕たちはその小屋で過ごした。小屋は村のものが山で仕事をするときに使うためのものだった。村へ出て、織田とやらの餌食にはなりたくなかった。僕はもう帰れないかもしれない。その思いがあったけれど、何よりこの非常事態を乗り切らなければならなかった。
タキは魅力的な女だった。
歳は17、兄弟姉妹もいるが、織田の軍が攻めてきたとき、両親を探していて、はぐれてしまったそうだ。
両親は多分殺されただろうとのこと、兄弟姉妹はどこかへ逃げただろうという。
夜になると真っ暗だった。さすがに寒くなり、心細くなってきた。山小屋だから多少の食料はあるし、小川がすぐそこにあるので飢えたり餓えたりする心配はなかった。
けれどもこの先どうなるか何も分からず、タキも心細さは僕とさして変わらなかったに違いない。
寒さが迫ると、肌の温かみが欲しかった。人のぬくもりが欲しかった。
お互い自然に身体を寄せ合い、自然に抱き合っていた。ただ、タキの体の臭いには閉口した。僕が味わったことのない臭いだった。

朝になると、タキは村を見に行こうという。
一緒に山を下りて村へ向かった。小川に沿い、小さな滝を過ぎ、大きな岩を回りこむと、田圃が広がっていた。
のどかな田園風景だった。
棚田を降り、村にさしかかると雰囲気が一変した。
家はすべて焼き尽くされ、黒焦げの柱ばかりが残っていた。
村の路地は死体が転がり、それはどれも黒焦げで、首の無いものもあった。
僕は気分が悪くなった。けれど、タキは平然と見て回っている。
神社の鳥居があった。
鳥居も焼け焦げていた。
その脇の家に彼女は入っていった。
「やってくれたわ・・織田の奴ら・・」
家は黒こげで今にも崩れそうだったけれど、彼女はその中から何かを探し出してきた。壷だった。
「何とか、せなならんし・・」
壷を外に出してひっくり返してみた。銭がいくらか出てきた。どういう訳かタキはその銭を何枚か僕に握らせてくれた。
銭は博物館にあるような代物だった。僕は、それをズボンのポケットに入れた。
「悲しくないのか?」
僕はタキに訊いた。
「悲しいわいな・・そやけど、もう、何年もこんなんばっかりやから、慣れたわ」
タキはそう言って溜息をついた。空に向かって溜息をつく姿が美しい。
空は曇り始めていた。
雨の匂いがする。西の空が真っ黒になっている。その西の空の下には須磨浦の鉢伏山が、そのままの姿でそこにある。
不思議な気がした。ちがうのはロープウェイの駅舎がないことくらいだ。
けれど、山の麓までずっと、田圃が続いていた。
風が吹いてきた。
「危ない!」
タキが僕に覆い被さってきた。焦げた家の壁に矢が突き刺さる。
馬が走ってくる。
「まだ生きているものがあるぞ!」
馬に乗った男は叫びながら猛スピードで近づいてきた。
始めは一人、けれど、いつのまにか何人もの馬に乗った武士が僕たちを取り囲んでいる。
雷が鳴る。稲妻が光る。
雨が降り始める。
本物の武士は恐ろしい格好をしていた。まるでアニメに出てくる凶暴なロボットのようだ。
おわりだ・・そう感じた。
タキと僕は焦げた家の壁にくっついて、彼らを睨んでいた。。男の一人が弓を引き絞る。矢は僕に向けられている。
雷が鳴る。大粒の雨。
「くそう!」タキが叫んだ。
「織田の馬鹿やろう!」タキの声が雷に消される。
稲妻があたりを包んだ。何も見えなくなるほどの光があたりを覆う。全てを破壊し尽くすかのような爆音が支配する。

気がつくと僕は公園のような所にいた。
雨は上がったようだ。
「気がついた?」
女が僕の顔を覗き込んでいる。
僕はベンチに寝かされていたようだ。
「あの・・タキは?」
「タキ?」
「あ・・いえ・・」
身体を起こし周りを見渡した。
町の中の公園のようだった。
「ここは・・どこですか?」
「ここ?妙法寺川公園・・ですけれど」
・・僕は夢を見ていたのだろうか・・ここまでどうやって歩いてきたのだろう・・たしか、須磨の背山にいたはず・・
体が痺れている。雷・・夢だろう・・
ここは現実の都会の中だ。
「大丈夫ですか?」
女は心配そうに僕に尋ねた。
女の顔を見た。きれいな顔立ちが押さえた化粧で引き立っていた。
僕は立ち上がった。ゆっくりと歩き始めた。どの方向でもよかった。
いずれにせよ、駅かバス停に出るだろう。
女もついてきてくれた。僕が着ているものはびしょぬれだ。
何かがポケットに入っている。
濡れたズボンのポケットをまさぐってみた。
銭が出てきた。タキが握らせてくれたあの銭だ。
僕は立ち止まりその銭を眺めた。わけがわからない。
「あら、それ、持ってきちゃったの・・」
女が僕の手のひらを覗き込んでいう。びっくりする僕に女は含み笑いをした。
そういえば、この女の顔は・・

公園のはずれから鉢伏山が見えた。
ロープウェイの駅舎も頂上に小さく見えていた。

何かが消えた日


俺は、その朝も海辺のマンションで目覚めた。
ここは俺のオンナ、ミオの部屋だ。
南の窓が開け放され、潮風が部屋の中に入ってくる。この部屋はいつでも俺の疲れた身体を癒してくれる。
ただし、ミオの性格だけは別だ。俺にはきつい。
好きな部分もあり、付き合い始めて2年になるが未だに俺は結婚を決めかねている。
ミオのほうも、俺の頼りない部分が好きになれないらしいし、結婚して自分の一生を預ける相手としては不服なようだ。

「ねえ・・マサト・・今日はネットがおかしいの」
俺が起きた気配にミオが話し掛けてきた。まだ眠い。頭がぼんやりしている。
ネット・・じゃあプロバイダーだろ・・ぼんやりとそう答えた。
「何も画面が出ないのよ」
・・パソコンは立ち上がったのかい?・・
「だから・・パソコンの画面が真っ白なのよ」
じゃあパソコンの故障かな・・そう思って俺はリビングにあるパソコンを見に行った。
ノートパソコンの画面全体が、ただ真っ白で何も映っていなかった。電源は入っていた。
「いったん、電源を落として、立ち上げなおそうよ」
「もう、何度もしたわ・・」
ミオが諦めたようにいう。俺もテレビのリモコンを持ってスイッチを入れた。
スイッチは入るし、チャンネルの数字は出るのだが画面は真っ白だ。チャンネルを変えてみた。
どこも写らない。砂嵐にもならない。
ようやく一つだけ映った。
地元のローカル局だった。再放送モノのアニメーションが流れている。
そのとき、外が異様に明るくなった。
・・なんだろう・・俺は窓の外を見た。海と、その向こうの島が見えるはずなのだが、一面強烈な光で覆われ、真っ白なだけになっていた。大きな音がした。ジェット旅客機が低空を飛ぶような音だ。
音は数秒続いた。音が一番大きくなったとき、部屋の中にまで光が入り込んできた。何も見えない・・真っ白になってしまった。
身体が少し痺れる。耳の奥で何か甲高い音がする。身体の血液が逆流するかのような異常な内側からの圧力を感じる。
一瞬、こめかみのあたりが突き刺すように痛む。脳の奥が麻痺する感じだ。

ふと気がつくと、部屋の中も窓の外も、いつもの景色に戻っていた。音も去ってしまっていた。
逆行気味の青い海、島、島と結ぶ巨大な橋がいつものようにそこにあった。
クラクションの音があちらこちらで鳴っている。
部屋から海と反対側を眺めて驚いた。
信号機の明かりが消えて車が交差点で立ち往生している。
道路の横に、鉄道会社の異なる二つの鉄道線路があったが、高架を走っている線路上で電車が停車していた。
「何が起こったの?」
ミオが俺に抱きついてきた。
「ただの停電だろ・・」
そう答えたものの、俺にも何がなんだか分からない。
「朝飯を食おう・・」そう言ってリビングに戻った。それでも外が気になり、海のほうを見ると、船はいつもどおり浮かんでいる。
安心してすぐ近くの巨大な橋を見ると車が数珠繋ぎになっていた。
テレビは相変わらず、再放送のアニメしか映らない。海から吹き込む風が心地よい。
俺は自分でトーストを焼き、ミオがコーヒーを立ててくれる。
「まてよ・・この部屋は停電になっていないのに・・どうして信号が消えているんだ・・」俺がそう言った途端、部屋の明かりが消えた。テレビもパソコンも電源が落ちてしまった。
とりあえず、会社の友人に電話を入れてみよう・・俺はそう思って携帯電話を取り出したけれど、画面には何も映っていない。
「携帯も停電か・・」
「何いってるの?携帯電話は充電が切れるまで大丈夫でしょう」
「え・・でも・・消えてるぜ・・」
・・そうだ・・俺は部屋の中の一般加入電話の受話器をとった。
音はしない。受話器も静まり返ったままだ。
ドーン!音とともに地響きがした。慌てて海のほうを見ると、巨大な橋の橋脚に貨物船が突っ込んで止まっていた。
船の警笛が聞こえる。それも一隻や二隻ではない。
海を良く見ると、大きな船ほどあらぬ方向へ向かっているようだ。

俺とミオはしばらくそのままじっとしていた。
クルマのクラクションと船の警笛はするものの、他の音がない。
「いつまで停電が続くんだろうね」
ミオが心配そうに聞く。
「俺には何もわからない・・何か変なことが始まっているのじゃないか?」
窓の外、空は抜けるようなブルー、時間が止まってしまったかのような錯覚を覚える。
しばらくしてパトカーのサイレンが聞こえてきた。
スピーカーで何かしゃべっている。
「なに?」
ミオが立ち上がり、玄関へ行こうとする。俺も立ち上がってついていった。
「こちらは県警です・・皆さんにお知らせします。決して外に出ないで下さい。外出中の方は近くの安全な建物に入ってください・・繰り返しお知らせします・・ただいま大規模な停電のようです。原因がはっきりするまで、慌てた行動は慎んでください・・」」
パトカーは車が団子になっている交差点を器用に抜けて、ゆっくりと過ぎていく。
俺たちはそれをマンションの通路から眺めている。高架上の電車はまだ停まったままだ。
パソコンも電話も使えない。電車は動かない。
俺は会社に行く気もなく、あとはなすがままにと言う気持ちになった。
しかし・・ただの停電なら、どうして携帯電話が使えなくなったり、船の動きがおかしくなったりするのだろう?
それ以上何も考えたくなくなってしまった。けだるい。
俺はまたベッドに横になって寝ることにした。
いつのまにかミオも俺の横に来て、二人とも眠ってしまった。

気がつくと昼ごろだろうか・・太陽の位置が高い。時計を見た。枕元の電池式の時計は1時をさしている。
静かだ。クラクションの音も聞こえない。
玄関を出て、また通路から外を見てみた。
車はゆっくりと動いている。交差点では警官が手信号でクルマをさばいていた。高架上の電車は停まったままだ。
部屋に戻り、海のほうを見た。
のどかな昼下がりの海だ。船は浮かんでいるが動いてはいないようだ。巨大な橋の上も車が行儀よく並んでいる。
「どう?停電なおった?」
ミオが眠そうな顔で聞いてきた。
「いやあ・・そのままだよ・・」
俺も眠気をかみ殺してそう答えた。ふと海のほうを見ると海岸で釣りをしている人がいる。
「気持ちよさそうだなあ・・釣りか・・」
ぼんやり俺がそう言うと「ねえ、海岸に出てみようか・・気持ちよさそうだし・・」ミオがつぶやく。
二人して外に出ることにした。
エレベーターは止まっている。
階段で下まで降り、国道から建物を回りこんで海のほうへ向かった。

海岸で釣りをしている人は一人だけだった。
中年の男性が海に向かって釣り竿を出している。
男性の横にはラジオがあった。
「釣れますか?」俺は聞いてみた。
「・・魚か・・釣る気はないのだよ・・こうしてラジオを聞いているんだ」
男は少し笑顔を見せて答えてくれた。
「ラジオ・・何かわかりますか?停電のこと・・」
男は、おや・・というように俺とミオの顔を交互に見た。
「停電なんかじゃないよ・・そんな生易しいものじゃあない・・」
「じゃあ・・なんなのです・・この状況は・・」
ふうっと男はため息をついて海のほうを見ながら言った。
「今、聞いているのは北京放送だよ。ここだとラジオが電波を拾いやすいからねえ・・」
「北京放送で何かわかりますか?」ミオが男に聞いた。
「余り大声で言うな・・パニックになるぞ・・さっき、巨大な隕石が通過しただろ・・あれから日本と連絡が取れないらしい・・」
「どういうことですか・・」俺はこの男が何か知っている気がしてきた。
「いったい、何があったというのですか?」
「僕にも分からないけれど、どうやら、日本中の情報が全てなくなってしまっているらしいんだ。衛星からの情報も含めて考えると、日本で大きな戦争があるとか、そう言うことではなくて、ただ情報というものが消えてしまったみたいなんだ」
・・情報が消えた・・どういうことなのだろう・・
「日本は今、コントロールがまったく出来ない状態になっているらしい」
「じゃあ・・その情報が戻ればいいんですよね」
「消えてしまったデータを取り出す方法はあるのだろうか・・僕は今、それを考えているところなんだ」

俺にはわからなかった。
データというものがこの世から消えてなくなるとどうなるのだろう?
いまやほとんどのものはデジタルデータで管理されている・・その管理が全く出来なくなったら・・
考えても分からない・・
「第一、電気だって、コンピューターで管理されてるだろう・・そのデータが一切なくなれば、停まるしかないだろう・・」
男は俺たちのほうを見て笑った。
「今ごろ、大半の人は君達のように停電だと思っているのだろうな・・」
波が打ち寄せる海岸で、コンクリートブロックの上に座って俺たちは海の遠くのほうを見ていた。
船も止まっている。
「船はGPSで航行を管理していますでしょう・・だったら、日本のデータが消えても衛星だから動けるのではないですか」
俺の問いかけに男は「GPSは大丈夫だと思うよ・・でもそれを受けるソフトが消えていたら・・」
「原発も停止、新幹線も停止、航空機は日本の領域に入れない・・携帯電話も駄目・・水道なんかは大丈夫かもしれないけれど、コントロールは出来ない・・」
男がつぶやく・・俺にも何がなんだかわからない。
「こういうときに何が出てくると思う?」
男は俺に問い掛けた。謎解きゲームみたいだ。
「えと・・自衛隊ですか・・」
「自衛隊は国家からの要請がないと動けない。国家は要請を出すことも出来ない。日本がコントロール不能・・あと何時間で最低限のことが動き始めるか・・それまでに動くものは・・」
男が俺ににやりと笑いながら続けて聞いてくる。
・・米軍!・・
「そうだよ・・あ・・中国軍もね・・」
「それはどういう口実で・・」
「口実などいらないだろうけれど、強いて口実を作れば、日本の治安確保のためだろうね・・」

波の音が何かを引きずり込むような気にさせる。
「なんだか・・身体が軽いわ・・」
ミオがそんなことを言う。
・・あ・・俺も肩こりが少し楽になっている・・
「強力な電磁波で肩こりも治ったのかな・・?」男が俺たちのほうを見て微笑む。
猫が近づいてきた。男はクーラーボックスの中の魚を猫に投げ与えた。
午後の日差しがまぶしい。
「来たみたいだね・・」
男が静かに言う。海の彼方、低空飛行で小さな航空機がこちらへ向かってくる。
それは見る見る近づいて、確かに米軍のものだと分かる近さで通過して、あっという間に去っていった。
「そろそろ帰ろう・・僕も自宅で様子をみることにするよ・・」
男は米軍機を見たことで目的を果たしたようだった。釣り道具を片づけ、ゆっくりと立ち去ってしまった。

俺とミオはしばらくそのまま海岸にいた。
じゃれ付いてくる野良猫の相手をしていることが何より大切なことのように思えた。
一時間も経っただろうか・・今度は航空機の編隊が西のほうからやってきて、東へ去っていった。
航空機は数十機という、俺が見たことのない大きな編隊だった。

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