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kou1960

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小説の形を借りて自分史も入れたりしています。
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友達から誘いを受けて、神戸電鉄の終点近くにある車庫へ、メモリアルトレインという名の復刻塗装電車を見に行った。
今年の夏は暑く、現地の気温は35度を超えていた。
めまいがしそうな真昼間だ。

そこに2編成の電車が鎮座していて、一編成は明るい緑色が主体の変わった雰囲気の電車で、これは僕が子供の頃に、鵯越の祖母宅へ頻繁に連れて行ってもらった時、旧型電車に塗られていた色だ。
道場南口神鉄1357・1151


そしてこの日デビューしたという、灰色の車体に窓回りを朱色に塗った電車は、僕の青春時代、まさにこの電鐵がこの色合いばかりで走り回っていた・・・あの頃を思い返す電車だった。

話には聞いていたし、だから今日はそれが完成した記念の式典ということなのだが、実物を見た瞬間、様々な思いがこみ上げてきて、少し、あの頃を思い返すと精神的にもろくなる僕には、暑さ故だけではなく、眩暈がしてきていた。

この日、僕が思い出したのは、昭和61年12月28日、冬の強烈な季節風の中、撮影を続けていた神戸電鉄の電車と、そのすぐ後に三宮で会った君や君の友達たちとの、ちょっと小洒落たバーでの楽しい時間。
神戸電鉄1353箕谷カラー

そして、そのあと、国鉄三ノ宮のプラットフォームで、向かいのビルに映し出されていた電光掲示板のニュース。
「本日、兵庫県香住町の国鉄余部橋梁で、7両編成のお座敷客車が強風にあおられて転落、列車の乗務員と列車が転落したカニ工場の従業員たち多数が死傷」

え・・
東へ帰る君たちに手を振りながら、僕は気が遠くなるのを感じていた。
当時、国鉄にはお座敷客車は多数あったが、7両編成というのは僕もチームの一員となって手掛けた「みやび」だけだった。

僕はこの客車の仕事を最後として、国鉄を退職した。
自分にとって最高の記念となる車両が完成したという自負もあり、これで国鉄を退職してもいつでも自分がそこにいたことを記念に思い返すことができるというものだった。

だが、君と心から寛ぎあうことができたこの夜に、僕は自分の人生での記念碑を一つ失ったということになったわけだ。

神戸電鉄の復刻塗装電車は、様々な思いを見る人に与えたのかもしれない。
僕の幼年期、このカラーの電車は急行用であり、鵯越には停車せず、いつも薄汚れた感のある旧型電車の「普通」に乗せられていた思い出も蘇る。
その鵯越も僕や先ごろ亡くなった母にとっては良い思い出の地ではなく、人間の勝手さと狡さ、そして自分たちの運の悪さを思い知らされるところでもあった。

だが、幸いに僕は長じて鉄道ファンとなった。
国鉄を退社しても鉄道ファンであることは変わらなかった。

辛い思い出しかない電車も、ファン目線で見れば美しく輝いているわけで、だから、君と打ち解けることのできたあの日にも、神戸電鉄の撮影をしていたのだ。

車庫でのイベントで見せてもらった復刻塗装電車だが、そのあとの運転を撮影しようという気にならなかった。
暑さ、寝不足、そして一気に押し寄せてきた思い出が、僕をその場に留めることを許さなかった。
正直、吐き気がするほどの苦痛が襲ってきた。

そして、昨日、今の仕事としているタクシーの乗務中、切ない思いに責められ苦しんだ。

君と一緒に乗ったのは、阪急・阪神、そして広電と広島のJR電車だ。
神戸電鉄で君を思い出して苦しむのは、これは自分では間違い以外の何物でもないが、自分の心など自分ではコントロール出来っこなく、結局、君への思いに苦しめられ続けることとなる。

そういう経験があるから小説も書けると・・友達は言ってくれる。
恋愛で苦しんだ人は誠実さで多くの人から好かれると言ってくれる人もある。
だが、小説など書けなくていい、君と繋がりあえる環境があるなら、ほかに必要なものなどあろうか。
別に、たくさんの人に好かれなくたっていいかもしれない、ただ、君がそこにいてくれれば、それに勝るものなどあったのだろうか。

本当に大切なものを、さして大切ではないものと比較して、間違えた選択をして、君を苦しめ、君を泣かせ、そして結局、お互いが離れていかざるを得ないそのきっかけを作ったのは、まぎれもなく僕自身だ。


妻がいて、娘がいて、僕は家族を愛している。
そこに何の不満もないはずではある。

ただ、友達としてでもいい、君との繫がりを持てていないこと以外は・・・


今日、勤務明けで、なのになぜか眠れない切れ切れの夢の後で、ふっと自家用車を走らせ、神戸電鉄粟生線の線路際に行った。
やはり、もっと見ようと思ったのだ。
あの、復刻塗装の電車を…

そして緑の中、まさに、あの頃の姿となった電車が僕の前を軽やかに走っていく。
その姿を見たとて、何かが変わるわけではないのだが、吹っ切ってはいけないものも世の中には、あるはずだと、そう思うことにした。
神鉄復刻塗装電車

生きている間に君に会うことができるだろうか・・
そして、少しでも君との時間を持つことがまたできるのだろうか。

何故か、君との接点のない神戸電鉄の電車が思い起こさせてくれた切なさに感謝しながら。
ポーアイBW


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オレンジの風

阪急1008夕景

さっき、あの線路際で重い望遠レンズを手持ちで振り回し
高速で突っ走る列車を見事に射止めていたあなたは
いま、僕の前に裸身をさらす

「早く、早く」と身体をくねらせて僕をいざなう
僕はもう、昼間の撮影で力を使い果たしてしまっていて
一刻も早く眠ってしまいたいのだが

あなたは「このままでは眠れない」などという
眠れなければ起きてればいいさと
僕の心はそう思っているはずなのだが
目の前の白くやわらかな曲線を描く乳房を見ると
自分が本当はどう思っているか
それすらも怪しくなってくる

あなたの胸の先にかじりつき
その柔らかい感触を口の中一杯に頬張った僕は
あなたの喘ぎを聞きながら
汗と体臭と、不思議な甘い香りの中に沈められていく

耽美と怠惰が僕たちを包み、オレンジの照明がわずかに
あなたのよりいっそう美しくなった顔を浮き上がらせる
二人の脇のテーブルには、先ほどまで使っていたニコンが二台

思い通りの撮影ができた
難しい夕陽のシーンで好きな列車の撮影ができた
僕たちは撮影が終わったあと
小躍りしてお互いのカメラのモニターを見せあったのだ

僕のカメラは列車主体で
あなたのカメラはオレンジの夕景が主役で
そして、安酒場で呑んだ後はここに来たというわけだ

白い肌をオレンジに染め
あなたはそれでも僕を求めてくる
僕は何とかあなたに応えようとしながらも
自分の力のなさを思い知りながら
そしてそれが本能だろうかと
あなたに挑みかかる自分がある

汗が水蒸気となって
さして広くない部屋に充満する
甘い香りは僕たちの生きている証なのだろうか

あなたは身体をくねらせ、激しい息遣いで僕に迫る
チカラをすべて出し切ったはずの僕はまたあなたに挑んでゆく
朝までこの営みが続くのだろうか

そうだ、カメラデータの確認と
機材の手入れをしなければ

一瞬でその思いは消え去り、僕はあなたの泉から迸る
甘い液体のなかに沈み込んでいく
汗と汗、体液と体液、唾液と唾液、息と息
冷たいカメラボディにはうかがい知れぬことでもある


(銀河詩手帖289号掲載作品)


おかんが逝った



平成三十年一月二十三日、午前六時二十八分、医師が母の死亡を確認した

おかん、もしかして死んでもたんか、死んどるんか
なんや、気持ちよさそうに寝とるやんか
息してるで、ほら、少し動いとうやん、動いとおよう見えるやん

「これは心肺停止っちゅうことですか」
分かり切ったことを、必死に感情を殺しながら仕事をするナースに問う
いつもはニコニコして感じの良い美人ナースだが
この時ばかりは悲しさと真剣さの厳しい顔だ

「そうです、先生が確認次第、死亡ということになります」
ちゃうわいな、寝とるんやで・・ぜったいそうや・・
そやけど、さっきから心電図モニターから、ピー!って煩いんや

そこへ息を切らせて走ってきた若い医師
聴診器を当て、瞳孔を見て、母の額に手を当てて
「六時二十八分、ご臨終です」と言って頭を下げはった

おかん、ゆうべ、ワシがここで晩飯食わせたやんか
おかん、そのとき、なんでか起きとるのに鼾掻きながら
息をするのが少しえらそうやったけど、ペースト状の晩飯全部食ったやんか
おかん、脚が痛いゆうさかい、ワシが脚を揉んだやろ
気持ちええって、ほとんど出えへん声でゆうたやないか
んで、めっちゃ眠そうやったさかい、美空ひばりのCDセットして
おかんの耳にイヤフォン差し込んで「東京ブギウギ」が流れたの確認して
「これでええか」ゆうて訊いたら満足そうに頷いたやんか
おかん、おでこの熱が下がっていくんや、おでこが冷えていくんや
おかん、ちょっと急やろが、もうちょい待たんかいな

昭和十二年五月十二日、満州国奉天で国際航路の上級船員の娘として生まれ
戦争のきな臭さを感じた両親によって神戸に連れてこられ
それでもまだ裕福な家の一人娘だった母

神戸の空襲で親族のあらかたが死に絶え
唯一残った実母と貧乏のどん底を味わうようになり
そして散髪屋の住み込みをしているときに
大阪から修行に来ていた父と出会い同棲を始めたという
そこからは驚くほどに多産で、十人の子を身ごもり八人を生み
六人が生き残り、それが我らが兄弟姉妹だ
父は酒がもとで母と六人の子を残して早世し
以後はほとんど苦しみの連続だったかもしれない母の
それでも、生来の良家の子らしく、物事に動じず
淡々として受け止めていくその強さとある意味の剽軽さが
母を助けたのかもしれない

おかん、二十八年前、脳内出血で死んだかと思ったのに
お医者もびっくりする回復で、見事に蘇ったよな
おかん、十年前、腎臓がもうだめで、いくらも生きられないといわれたときも
透析を受けることでワシらの前に居ってくれたな
おかん、三年前、もうホンマにアカン・・そない思わせといてまた蘇ったな
おかん、今度はなんで蘇らへんのや
また二三ケ月したら、ベッドの上から立ち上がるんちゃうんか
・・・おかん

額はますます冷たく、母は帰らぬ人となった
実父の面影を大きな客船に見ていた母にとって
明石海峡がよく見える病院が最後の住まいとなったのは
これは偶然ではないのだろう

(銀河詩手帖287号掲載作品)

冬の女性イメージ


あまりお洒落でもないファミレスで間に合わせて、貴女とお茶する。
屈託のない、ばかげた話ばかり出るのかと思いきや
今日ばかりは少し違うようで、
深刻な話を笑顔でする貴女に
僕ではなく、隣の席の若い女性が凍り付く

人生はいろいろだ。
そして人生はエロエロだ。
男女のことなど、大昔から繰り返されてきたことに
別に新しいものなどないし
殆どのことは想定内なのだけれど
それでも、あっけらかんと話そうとする貴女に
僕も思わずきつい目線を投げかけてしまう

だが、それでも僕の本心を言えば、僕のほうに向いてほしかった。
貴女が誰に貴女の身体を預けようが、それは僕の知るべきところではないし
貴女の自由を僕は抑える気などないし、
またそのようなことなど出来っこないことも分かっている

だが、それでもなお、言わせてもらうなら
僕が貴女の相手であってほしかった
もっと言えば、僕が貴女を抱きたかった

そんな資格はないし、僕はあなたに男性として見られているわけではない
でも、僕にもオトコとしての下心はあって
極上の女である貴女を抱きたいと思うのは
これは普通のことだろう

そして僕はあなたに惚れていて
と言っても恋多き男の一瞬の気まぐれに過ぎないかもしれないが
貴女の身体を自分のものにしたい欲情もないとはいいきれない

それは何をどう繕っても繕いきれない僕そのものであり
もはや開き直って自分を慰めるしかないわけだ

惚れたというのがすなわち相手の身体を求めること
それは若い男性なら、そういう短絡があってもいいとは思う
だが、人生も残すところ三分の一という
まもなく老いらくが始まる世代の僕では
自分の限界も知り
そして何より想いの大きさが大事になってくるといえば
それは美しすぎる表現だろうか。

もはやセックスは想いを果たした目的ではなく
生きるうえで何より大事なのはその想いを持ち続けること
歳を重ねるというのは、そういうことを事実として
自分の中に組み立てるということ
それがよく言えば経験を積む
悪く言えば老いるということなのだろう

屈託なく話しているようで
ふっと、涙を見せ
あるいは感情の高まりを見せる貴女の

その悩むことの要因を作った男に僕は嫉妬する
決して男前ではなく
決して頭がよさそうでもなく
無邪気で
無遠慮で
いつも笑顔を振りまいているあいつに
勝てっこなどないけど

僕はそれでも貴女を愛している

モノクロ暗室

セーフティライトの僅かなオレンジ色の明かり
現像液や酢酸、定着液の匂いが漂う暗室
棚の上に置いたラジオから好きな歌が流れる

カチッ、スイッチの音が暗闇に沁みる
エンラージャ―の手元にそこだけ光が差し
かすかに浮かび上がる君のシルエット
「イチ、ニ、サン、シ、ゴ・・・・ジュウ、ジュウイチ」
君が呟くように秒数を数え、カチッ、スイッチが切れる
イーゼルを外す音がして
広がっていたペーパーをセーフティライトすぐ下の現像液に漬す
竹ピンセットで紙の淵の持つ部分を変えながら、液体の中の印画紙を揺らす
やがてぼんやりと、そして次第にはっきりと黒と白から成す画像が浮かび上がる
「もう少し、もう少し黒が締まって現像の進行が止まるまで」
今にもペーパーを引き上げようとする君に慌てないようにと僕が呟く
一心にバットの中の印画紙を振る君の
その胸のあたりの柔らかそうなシルエット
「はい、もうすこしですね・・あ・・なるほど、黒が締まってきました」
「暗室の中で見る黒は実際よりは薄く感じるから、ちょっと慣れが必要なんや」
「はい、もう少しですね」
液体の中で紙を揺らせ続ける君の竹ピンセット
「もう、ここまで来たら揺らさなくても大丈夫・・さぁ、そろそろいいよ」
「はい」
「一気に停止液にね、ムラができないように」
「はい」
一瞬、揺らされた酢酸の表面から甘酸っぱい香りが漂う
「よし、定着!そろっと、でも一気に・・」
「はい」
定着液の普段の生活ではありえないあの香りが鼻を衝く
「しっかり浸したかい?」
「はい」
「印画紙はすべて箱の中にしまったね?」
「はい」
「じゃ、明かりをつけるよ」
いきなりついた白熱灯の明かり、そして定着液に浸された四つ切のモノクロ写真
「どうですか?」
心配そうに君が訊ねてくる
ストレートの黒髪、うすく広がる汗
フジフィルムのエプロンを付けたその下にはTシャツに包まれた柔らかそうな胸
「うん、いい写真やね、ただもう少し黒が締まってほしいなぁ‥」
「どうすればいいんでしょう?」
「露光時間ではなく、絞りを半分あけよう」
「はい」
またセーフティライトの明かりだけになった暗室で、作業が再開される
現像液、停止液、定着液の香りが広がる
君が一心にバットに向かって竹ピンセットを動かすシルエット・・
こうして僕は君が二十枚ほどの写真を焼くのを横で指導していた。
そして君の一生懸命な柔らかさを目で楽しんでいた
「ありがとうございました」
白熱灯を付けた暗室で君は汗をにじませて笑顔を見せる
「こちらこそ」
そういいながら僕は明かりを消して
またセーフティライトのかすかなオレンジのなか
肩を引き寄せ、口づけを交わす
暗室の壁に君を押し付け、僕は君の身体から
君の甘い養分を吸い取ることに余念がなく

写真薬品の匂いに汗や体液の匂いが混ざる
かすかな君の喘ぎ声と無口な自分自身
暗闇に支配された僅かなオレンジ色は
君の身体の柔らかい部分を浮かび上がらせながら
そして君の長い黒髪が暗室の壁に張り付いていく
僕にはこのひと時が永遠であればと、そう願っているのだが

先ほどデジタルカメラで撮影した画像を
パソコンの中のPhotoshopで修正していく
横に置いたスピーカーからはあの時と同じ好きな歌が流れる
それはパソコンの別窓で出しているデジタル音源
ふっと思い出す、青春のあやふやな気持ち
ふっと蘇る青春の、つかみ損ねた大切なもの・・・
キーボード横のグラスには濃い水割り

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