無料レンタル FC2 Blog Ranking story(小さな物語)   那覇新一

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kou1960

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小説の形を借りて自分史も入れたりしています。
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冬の女性イメージ


あまりお洒落でもないファミレスで間に合わせて、貴女とお茶する。
屈託のない、ばかげた話ばかり出るのかと思いきや
今日ばかりは少し違うようで、
深刻な話を笑顔でする貴女に
僕ではなく、隣の席の若い女性が凍り付く

人生はいろいろだ。
そして人生はエロエロだ。
男女のことなど、大昔から繰り返されてきたことに
別に新しいものなどないし
殆どのことは想定内なのだけれど
それでも、あっけらかんと話そうとする貴女に
僕も思わずきつい目線を投げかけてしまう

だが、それでも僕の本心を言えば、僕のほうに向いてほしかった。
貴女が誰に貴女の身体を預けようが、それは僕の知るべきところではないし
貴女の自由を僕は抑える気などないし、
またそのようなことなど出来っこないことも分かっている

だが、それでもなお、言わせてもらうなら
僕が貴女の相手であってほしかった
もっと言えば、僕が貴女を抱きたかった

そんな資格はないし、僕はあなたに男性として見られているわけではない
でも、僕にもオトコとしての下心はあって
極上の女である貴女を抱きたいと思うのは
これは普通のことだろう

そして僕はあなたに惚れていて
と言っても恋多き男の一瞬の気まぐれに過ぎないかもしれないが
貴女の身体を自分のものにしたい欲情もないとはいいきれない

それは何をどう繕っても繕いきれない僕そのものであり
もはや開き直って自分を慰めるしかないわけだ

惚れたというのがすなわち相手の身体を求めること
それは若い男性なら、そういう短絡があってもいいとは思う
だが、人生も残すところ三分の一という
まもなく老いらくが始まる世代の僕では
自分の限界も知り
そして何より想いの大きさが大事になってくるといえば
それは美しすぎる表現だろうか。

もはやセックスは想いを果たした目的ではなく
生きるうえで何より大事なのはその想いを持ち続けること
歳を重ねるというのは、そういうことを事実として
自分の中に組み立てるということ
それがよく言えば経験を積む
悪く言えば老いるということなのだろう

屈託なく話しているようで
ふっと、涙を見せ
あるいは感情の高まりを見せる貴女の

その悩むことの要因を作った男に僕は嫉妬する
決して男前ではなく
決して頭がよさそうでもなく
無邪気で
無遠慮で
いつも笑顔を振りまいているあいつに
勝てっこなどないけど

僕はそれでも貴女を愛している

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母と船と新幹線

1104明石川N700A下り

春の夕暮れ、山陽電車の別府駅で降りた我が一家は、高架の上でさらに構内踏切のある不思議な駅から沿岸工業地帯に林立する無数の煙突からの激しいばい煙を眺めながら、なんとも遠くへ来てしまったものだと、それぞれが感じていた。

いや、その中にいた母こそ、十二歳の私を筆頭にした六人の子供に、いつ倒れるかわからない、酒で身体を壊した父という組み合わせで、本来は自分が生活の拠点にしていた神戸や大阪から遠く離れてしまったこともあわせ、最も大きな不安を持っていたはずだ。

その時、宙を切り裂く轟音が聞こえ、強烈なヘッドライトが迫ってきた。

山陽新幹線の、白い車体は十六両もの車両を連結しながら、八つのパンタグラフから派手にスパークを飛ばして目の前を通過していった。
それは、これまで身近だった南海電車や大阪市営地下鉄、阪神電車・・それに今しがた長時間ゆられてきた山陽電車などの縁の深かった鉄道と明らかに違う異世界の生き物のように見えたかもしれない。

乗ってきた電車が行ってしまった別府駅のプラットフォームに佇み、呆然と新幹線を見送る母。
春の夕暮れの切ない思い出でもある。
たぶん、それまで母は新幹線には乗ったことがなかったはずだ。

ただ、父がそれからわずか半年後に亡くなり、母は自分で子供六人を育てる決心をするのだが、それは貧しくても気負う必要のない世界とて、以後はしばらく母にとって平穏な日々が続くことになる。

乗り物が好きな人で、観光バスに乗ることも喜んだが、一番、心底から好きだったのは船だった。
母の実父が船乗りで、その頃、母は満州の長春に住んでいたらしく、数か月に一度、きれいな白い制服を着て帰ってくる父親が自慢で、その父親、私にとっての実の祖父は大変な美男子で乗っていた船は大きな白い船だったそうだ。

これまでは常に、少し歩くだけで船が見えるところで生活していた母にとって、加古川は一般人が立ち入れる浜や岸壁が遠く、その港に出ても工業地帯のための貨物船ばかりで華やかな客船は見られない。

父が亡くなったのが新幹線や山陽本線に面した病院だった。
そこから、母は泣くような思いでスパークを上げて突っ走る新幹線の列車を眺めたことだろう。

住んでいたのが社宅であり、一家全員で暮らすために、加古川市内でもずっと北のほうの住宅を借りた。
海から離れ、内陸部で生活する羽目になり、自宅そばの棚田から遠くを見れば、海はいつもきらきら光って見えるが船は芥子粒ほどにしか見えず、母から船が遠ざかる。
かわりに新幹線の白い車体が時折用事の合間に見られるようになる。

山陽本線の快速電車で神戸へ向かう際、魚住辺りで山陽新幹線が走っているのを見ると、「あれに乗ってどこかに行きたいな」と独り言を言う。
実際に何度か新幹線には乗車しているはずだ・・それが楽しい思い出かどうかは別にして。

二十八年前、脳内出血の大病を患い、あと何時間生きられるかと医師に言われたが、奇跡的に三か月で退院し勤めも再開した。
この頃、まだ健在だった父方の祖母から会津の親戚宅を訪問する旅行を提案され、しかし、時期は五月の連休・・私がそのためにやっととったチケットは「急行きたぐに」の寝台車で新津へ出て、磐越西線「急行あがの」で会津へ向かうというものだった。

「あんた、自分が好きな列車を選んだやろ」
と見透かされはしたが、それはそれなりに旅を楽しんだ様子だった。
今思えば嘗ての「つばめ」「はと」にも何度も乗車したという祖母と、あまり旅慣れしない母があの五八三系電車の三段寝台でどのように過ごしたか・・考えるだけでも少しおかしい。
もちろん、帰路には東京から新幹線に乗っているはずだし、もしかしたら私がまだ一度も乗車したことのない東北新幹線にも乗ったのかもしれない。

その旅行はことのほか楽しかったらしく、つい最近までもその話をしていたほどだった。
祖母と母は妙に気が合うようで、自分の実母より義母のほうを本当の母親と思うとよく言っていた。

祖母が亡くなったのは神戸の震災の年だった。
三月、未だJR線も灘と住吉の間で途切れていて、母と妻を連れての大阪行きは、私には厳しい案内となった。
まだ肌寒い早春の、電車・バス・電車と降りては並ぶ乗り継ぎで、やっと着いた大阪ミナミの葬祭場の一室で寝ている祖母の小さな体に母はしがみついて泣いた。

葬祭場は狭隘で宿泊できず、大阪市内では震災特需のおかげで宿をとることができず、やむなく南海電車の堺駅前のビジネスホテルを使ったが、その南海電車は母にとって苦しい思い出でしかなかった泉大津へ向かう電車だ。
夜の新今宮駅、緑ではなくなった南海電車を不思議そうに見ながら、それでも和歌山市行の急行に乗るとさほど変化のない車内に「懐かしいね」と言っていた。

祖母の葬式の帰路、母を連れての過酷な阪神間の基本ルートは難しいと判断した私は、大阪天保山から神戸中突堤への臨時航路を使った。
天保山は私たち一家が六年ほど住んだ思い出の町で、その頃は我が家が経済的にも豊かで、父が元気だった。

最初は船のターミナル脇の小さな二階建てのアパート、そして文化住宅、さらに当時は珍しかったエアコン完備のマンションへと移っていった。
その天保山を懐かしく見ながら、そこから船に乗った。
いつもは神戸港の遊覧に使っていそうな船だったが、快適に、あっという間に神戸港へ着いた。
母が、いつも船を見ていた天保山から、その船に乗れたのは後にも先にもこの時だけではなかっただろうか。

脳の病気をすると腎機能なども衰えることが多いといわれる。
その通りに母は腎不全を患い、やがて透析患者となった。
すでに加古川の家を出て神戸に住んで長く、しかも一昼夜勤務の私には、時折ある病院からの呼び出しに付き合うのは苦痛でしかなく、医師の勧めもあり、私の現住地の近くで母に生活してもらうことになった。
その場所は緑に囲まれたニュータウンで、部屋の真横に大きな桜の木があり、「なんてきれいなところ」と喜んでくれたが、海は母の足には遠い。

透析の病院も転院となり、最初はそこへ送迎車で通っていたが、やがて病状の悪化とともに、入退院を繰り返すことになる。
その病院というのが私の仕事場のすぐ近く、丘に広がるニュータウンの中にあり、デイルームからは明石海峡がよく見えた。
母が入院するたびに、私は病院の夕食時刻には食事介護に行き、母をデイルームに連れて行って食事をしてもらうようになった。

ちょうどその時刻は天津への国際航路や、新居浜や高松へのフェリーが通過する頃で、母と気がすむまで船を眺めたものだ。
思えば、母が好きな船をゆっくりと眺めることができたのはこの時だけだったのかもしれない。

別の拠点病院へ検査のために行くとき、介護タクシーが明石川を渡るときだ。
ちょうどすぐ南の新幹線橋梁をN七〇〇の真っ白な車体が流れていく。
速度があまり高くなく、たぶん西明石に停車する「ひかり」だろうか。
白く長い車体を見て母が感嘆の声を上げた。
「きれいな電車!あれに乗りたい!」

だがすでにその時は歩くのはおろか、身体を支えるのも困難になっていた。
出来れば、母と一緒に新幹線か船の旅がしたかった。

そういえば、父も大変、乗り物が好きで、母いわく「三ノ宮から大阪まで、汽車の時間調べてそれに乗りよんねん。乗ったら駅弁、恥ずかしかったわ」といったことがあった。
その頃は長距離の客車列車が走っていて、父はその時刻を知っていたということなのだろう。
それに、我が家が神戸駅の近くだった時、「今夜は駅弁にしよう」と父が言って、駅へ行って駅弁を買ってきたことが何度もあった。
父と天王寺近くを歩いていた時、関西本線の蒸気機関車牽引列車が発車するところに出くわし、しばらく親子で見つめていたことだ。
私の鉄道好きは突然変異でもなんでもなく、両親から引き継いだものかもしれない。

つい数日前、母が最後は一年三ケ月の入院の末に亡くなった。
最後の三か月ほどは病室から出ることもできず、好きな船を見ることもかなわなかった。
子供六人を生み、父亡き後、女手一つで必死に私たちを育ててくれた母。
だが、乗り物を見てそれに喜ぶ少女の気持ちのままの、純粋な女性だったのだと、いま改めて感じているところだ。

母と父はあちらの世界で今頃、船か汽車、あるいは新幹線の旅をしているところだろうか。
0529サンフラワー

ルミナリエ

1217ルミナリエ広場

冬の夕方になると、君は人通りの多いライトアップされた街中を避けるようになる。
陽の短い冬の午後、三時ころになると君は決まって「人が増える前に帰ろう」とか、あるいは「どこかに入ろうよ、寒いから」などという。
春から秋の初めまでは、君も夜の帳の下りた三宮で賑やかな夜を楽しむのだけれど、少なくとも僕と君が出会ってからの五年は・・ずっと冬の夜には街中に出ていかない君だ。

だが今夜は神戸では冬の風物詩として根付いている「神戸ルミナリエ」の最終日だ。
僕は「今夜だけはルミナリエを見に行こうよ」と少し強く君に押した。
君は心なしか悲しい表情をしながらも「うん」と頷いてくれた。

元町駅前からの長い行列は、車道を厳重に囲んだ専用通路で、道路わきの歩道とは確実に仕切られている。

それにしてもだ、この街の、冬の夜のライトアップは居並ぶビルや商店の全てであり、街路樹までもが無数の電球で飾られていて、美しい。
クリスマスのライトアップとしては、たぶん、関西ではここの右に出る街はないんじゃないかと思うくらいだ。
「きれいだね・・」
僕のふっと漏らしたつぶやきに君は「そう?」とだけ答えた。
「なんか、機嫌悪そうだな・・無理やり連れてきたからかい?」
「別に・・機嫌はいつも通りなんやけどね」
いつもの柔らかな関西弁のイントネーションで、それでも機嫌の悪そうな君の横顔は様々な人工の光の中で美しい。

車道幅いっぱいの大行列は、元町の大丸前から一旦、ずっと東の三宮神社の先まで行き、そこから一筋南の道路へ・・
今度は元町の大丸を目指して歩くという大迂回だ。
「寒くないか・・」
今年の冬は寒い、まだ十二月の半ばだというのに気温は零度近いのではないだろうか。
「別に…」また愛想もなく君が答える。
「やっぱり機嫌が悪いんだ・・」
「こうして一緒に歩いとるんやから、機嫌が悪うてもええやん・・」
大丸百貨店の東脇の樹々につけられたイルミネーションはことのほか鮮やかで、軽い音楽が流れてくる。
ここまですでに三十分以上、歩いたり止まったりしている。

そして大丸百貨店の南角を曲がり、旧居留地に入った途端、巨大な光の塔とその先の長い光の回廊が僕たちの目の前に現れる。
「すごい、すごいね」
僕は思わず叫んだ。
横の君を見ると、君は頬を紅潮させ、光を見つめている。

大勢の人がスマホで写真を撮影したり、中には大きなカメラ機材をもって撮影している人もある。
警備員や警官が「立ち止まらないでください」と叫ぶ。
荘厳な音楽が流れている。
だが、観客は皆、この景色を見に来たのであって、立ち止まらずになんていうのは無理だろう。
行列の進む速度は遅く、人々の表情は笑顔であふれている。

僕もあまりの美しさに頬が緩む。
だが、君はじっと前を強く見据えたまま、黙々と歩く。
僕が何か感嘆の言葉を発しても、無視するか、黙って頷くだけだ。

光の回廊を過ぎ、東遊園と言われる広い公園に入ると、そこには巨大な光のアーチと、その先の巨大な光の城があった。
ここには三宮から行列なしでも入れるためか、回廊を歩く人の数倍の人がいるように思える。
だが、それでも光の城に近づくとそれなりに空間もでき、僕は自分のスマホでゆっくりと写真を撮る。

その時だ、君が急に僕の手を握った。
「こっち」と言いながら僕を光の城の外側に連れていく。
「どこに行くの?」
「行かなアカンとこなんよ」
人の流れを横切り、タコ焼きやケパプや牛串の店が並んでいるその脇、ルミナリエの光がそこだけは届かない僅かの空間、屋台から食べ物の匂いが流れてくるその暗がり・・そこに人々が入れ代わり立ち代わり、やってきている場所があった。


1217ルミナリエ震災の火

そこにあったのはガラスケースに収められた小さな炎。
その前で君は立ち止まり手を合わせた。
「これは・・」
「知らんかったん?あの震災の時の炎・・」
ここは暗がりで君の表情がよく見えない、だが君は目に一杯涙をためているように見える。

僕もそこで手を合わせた。
そこだけは何か冒しがたい雰囲気があった。
そこに集まる人々の表情から明るさや楽しさは窺い知れない。

君は炎に何かを語りかけているようだった。
「もしかして・・君の関係する人が震災で亡くなられたの?」
恐る恐る、炎を見つめる君に訊いた。
「父と母と、何人もの友達と、近所のたくさんの人と・・」
小さな声で君はそう言った。
そしていきなり大声をあげて泣き出した。

******

あの日、須磨区で崩れた家の中から、子供たちの泣き声がした。
まだ夜の明けきらない真っ暗な中、周囲の人が必死になって瓦礫をどけて、その子供たちを救い出した。
小学生の兄と妹だった。
一階にお父さんとお母さんがいるという。
一階と言っても崩れてしまった家では二階が一階を押しつぶしたような格好になり、とても人力で瓦礫をどけられる状態ではない。
それでも、大人たちは必至で親の名前を呼びながら瓦礫を退けようとする。
やがて、布団が出てきて、すぐに人の足先が見えた。
だがそれ以上ではとても人力では、身体に乗りかかっている木材を動かくことができない。
朝から辺りには近所で発生した火事の煙が漂ってきたが、ついにその炎が家のあった場所にも近づく。
「逃げよう」
誰となくそういう声がした。
逃げなければ自分たちが炎にまかれるのだ。
消防のサイレンはすれど、一向に火が鎮まる様子はなく、むしろ火勢は勢いを増し、真っ黒な黒煙があたりを覆う。
小学生の兄と妹は、そこから大人たちに無理に引き離された。
「おかあさん、おとうさん」と泣き叫ぶ声に、大人たちはどうすることもできず、黙って兄と妹をその場所から近所の小学校へと連れて行った。

*****

「帰る」
泣きながらそういう君を手を取り、僕らはその場を離れることになった。
僕は君の生い立ちを詳しく訊いたことはなかったし、ご両親が亡くなられていることは知ってはいても、それが神戸の震災の故だとは気づきもしなかった。
ただ、唯一の身内としてお兄さんが一人あって、近くで家庭を持っているということだった。

人混みの中を、右に左に避けながら、それでも串に刺したリンゴ飴をかじりながら歩いている女性の集団や、焼き鳥の串を歩きながら齧っている家族連れなどに少し危険を感じながら、公園の北の端まで来た時、君が立ち止まった。
そこには女性の裸像があって、時計を抱いていた。

1217東遊園地震災彫刻加工

「あの娘、可愛そうやんな・・寒い冬でも裸やなんて」
「ああ」
まさかそんなものにそう言う感情を抱くのが僕には不思議だ。
「時計を見てよ」
その時計の針が五時四十七分を指している。
「めっちゃ肌も汚れて、だれも綺麗にしてあげたいとか、服を着させてあげたいとか思わへんのかな」

ルミナリエの光の祭典の脇で、君は立ちすくんで裸像を見る。
僕はやっと、君が、冬の夜の神戸を嫌う気持ちが理解できた瞬間だった。
イルミネーションを見に来るたくさんの人々は、寒くて真っ暗な明け方の、火が迫る中での恐怖に満ちた時間を、命を終えねばならなかった時間を、感じ取ることはあるのだろうか。

僕は普段の数倍の人であふれる三宮の、ライトアップされたビルのその前で、君を抱きしめた。

閨の戯言

女性裸身イメージ


わたし、ヤクザのスケやったんよ
「なに?」
わからない?
「わからないこともない・・」
んま、想像されているとおりやけどね
「それっていつ頃の話なん?」
うん、まだ中学生だった
「今なら犯罪」
当時でも犯罪かもね・・でも、わたしが転がり込んだの
「転がり込んだ?」
家出してね・・寒くて寒くて・・通りがかったかっこいい人に
ね、今夜泊めて・・って言ったの
「大胆やなぁ」
必死やったよ、とにかくどこか暖かいところへ行かないと・・って
「でもそれだけで拾ってもらったの?」
うん、お前一人かって・・行くところがないならついて来いって
「泊めてもらえたの」
そのかわり、来るということがどういうことかわかってるなって・・
「つまらないことを訊くけど・・」
なにが訊きたいか・・あててあげましょうか
「うん・・」
そのとき、君はバージンだったか?って・・
「うん、それを聞こうとしてた」
わたし、早かったからね・・もう十分、経験済みだったって・・嘘よ
「じゃぁ・・」
うん、その人が初めて、でもね・・すごく優しかった
「ヤクザなら女に慣れていたんじゃないの、その人」
全くそんなことはなくてね・・周りの人が怖がるような人なのにすごくかわいい・・
「かわいい・・?」
男性として、そういう時はまるで弟みたいな
「よくわからんなぁ」
分かれっていうほうが無理だとは思うよ
「でももう一つ、訊きたいことあるけど」
なにか、危ないことをさせられなかったか?でしょ・・
「よくわかるね・・」
その世界にもいろんな人がいるけど、その人は絶対にヤクとか、そういうものを誰にもさせなかった・・
「信じられない」
人はいろいろ、どの世界にもまっとうな人はいるわ
「なるほど」
すごくまともな人だった・・
「その人とはどうして離れたの?」
もう、帰りなさいって・・半年ほどいたかなぁ…ここはお前のいる場所ではないよって
優しく言われたの・・
「じゃ、それからどうやって生きてきたの?」
その人が少しお金をくれてね・・親のところへ帰るんだよって
「ふうん・・それで・・」
素直に帰ったわ・・
「親御さんはそのときどうだった?」
べつに・・帰ったの・・だけ
「半年ぶりに帰ったのに?」
彼からは連絡はしてあったみたいよ・・捜索願も出されてなかったし
「普通なら、ヤクザに娘が拉致されたとか言い出しそう」
わたし、親の手に負えなかったからね・・もう、何もかも反抗してぶっ壊して
「今の君からは信じられない」
でしょう・・今はとってもお上品でしょう・・
「お上品かどうかはよく知らんが・・」
知らんって・・・ひどいわねぇ
「可愛いけど」
けどぉ??
「ちょっと怖いところがあるのはそういうことかと」
怖い?わたしが?優しいつもりだけどね・・・
「意志を貫くというか、自分を持っているというか」
そんな風に見てくれるの・・ありがとうね

あなたは、枕もとのバックから細身の煙草を取り出し、オイルライターで火とつける
僅かなオレンジの明かりだけの部屋の中を、細い煙のスジがゆっくり上っていく

あなたは旨そうに煙草を一本、吸い終わり、また掛布団にもぐりこんだ
僕は無様にもその布団に頭から潜り込んであなたの口を吸う
柔らかな煙草の薫りが僕の口の中に広がる
僕は今、あなたを愛している
僕は今、あなたとともに息をしている


風の中のあなた


(本作品は「秋色の貴女」を銀河詩手帖用にリファインしたものです。285号に掲載されました)
加古川西岸イメージ


土手の線路際、僕は三脚に望遠レンズ付きのニコンを載せ秋風を肌に受ける
線路は僕のいる場所から数百メートルで大きく湾曲し
その向こうに神の山が聳える

やがて、神の山のふもと、はるか遠くに紫煙があがる
ファインダーに注視して、風を受けながらシャッターレリーズを握る
大きく湾曲する軌道の先で、紅いディーゼル機関車が姿を現し
それはゆっくりと軌道をトレースしながらファインダーの中で大きくなっていく

続けてシャッターを押す
風音と機関車のエンジンの音、僕が切っているシャッターの音が耳に入るすべてだ
列車がファインダーいっぱいになって、やがて青い客車が次々と現れる
ファインダーから列車の姿が消える

ふっと、こういう秋の日、この場所ではあなたに会える・・そんな想いがわく

間髪を入れず、「わたしに会えると思ってくれた?」
懐かしく、優しい声がする
後ろを振り返ると、秋色とでもいうのか
オレンジや茶、深緑をパッチワークのように組み合わせたワンピース姿の
・・あなたが立っていた

「思ってたよ、なんとなく、気持ちの良い秋風の日だから・・」
「嬉しいな、そう言ってくれるの」
柔らかな秋の日差しを浴び、霞のように現れたあなたが優しく僕を見つめてくれる
ショートの髪、朱色の口紅、色白で頬のあたりが紅い、いつものあなただ

「ここに来るの、ずいぶん、久しぶりでしょう」
「うん、仕事と家事に忙殺されてね」
「いいなぁ、幸せな家庭があるの・・」
あなたはそういって神の山のほうを見る
「君にだってあったじゃないか」
「幸せ?ないよ、そんなもの」
「仕事のできるご主人と、可愛い子供さん二人と」
「見た目はね‥功徳とやらがいっぱいの家庭の演出」
「そうかなぁ・・取り方はいろいろだろうけど」

*****

あれはもう何年前になるだろうか
この線路が湾曲する少し先の、当時は田圃の真ん中だった細い道を
一人の主婦が所用のために北へ向かっていた
そこに人だけが通れる小さな踏切があった
この地方特有の大きな太陽が神の山の脇に沈むその頃だ

ちょうど踏切の警報音が鳴り、夕陽の下に強いヘッドライトが見えたことだろう
主婦は一瞬立ち止まり、そのヘッドライトを見つめ、意を決したかのように
降りている遮断桿を持ち上げて線路に入り込んだ

そして軌道敷に座り込み、ヘッドライトを浴びせる機関車を見つめる
電気機関車EF210の泣き叫ぶような警笛があたりに響く
ブレーキシューが車輪踏面を押さえつけ
車輪とシューの鉄粉が線路に飛び散り、その接触の金属音が激しく長くこだまする
主婦はじっと電気機関車をにらみつけていた
「わたしをきちんと轢きなさい」と命じるかのように・・

*****

その場所は今は住宅に覆われ、町の中で線路と細い街路が交差する目立たない踏切だ
僕は数度、そこへ祈りに訪れたけれどそこであなたに会うことはなかった
あなたに再開したのはその数年後の秋に、ここの土手に来た時
今日と同じように列車の撮影に来た時だ
 もちろん、僕は現れたあなたに対して、非常に驚いた
だけれど、もともとが僕にとって憧れの女性だ
中学生の頃の清楚な美しさが今も心から消えることはなく、
ほかの人ならたぶん驚いて恐怖のあまりその場から逃げ出したかもしれない
そのシチュエーションで親しくあなたと話をして
あなたの生前に聞けなかったことを伺うことで却って嬉しく思ったものだ
 
中学生時代はあなたから見て、僕がかなりガキに見えたこと
今でも中学生の頃と同じようにカメラをもって列車を追うことに
ちょっと呆れていること、でも、そんな僕が自由に見えて羨ましかったことなど

名門といわれる宗教系の高校に進んだあなたは
本来は凱旋して帰ってきたはずなのに、心を病んでいた
やがてお見合いで結婚し、幸せに見える家庭を築いたけれど
あなたが家庭の中で笑う姿を、あなたの夫は見たことがないという

「わたしはただの親の道具、幸せの演出も組織を守るため」
「そこのところは僕にはよくわからないけど、僕には十分、幸せに見えたよ」
「親の言うままに、教団の学校に行って、エリートとして帰ってきた時の、わたしの心はボロボロ、そこには人間らしいものは何もなかったわ」
「そうか、僕はその頃には中学校を出て、鉄工所で仕事をしながら夜間高校に通っていたから、名門の学校に進めた君がうらやましかった‥」
「わたしには、自分の力で社会で生きて、自分の力で切り開くチャンスを持ったあなたが羨ましかった」
「そうかぁ・・えげつないものだぞ・・あの年ごろで一人で生きるのは‥」
「でも、それって親の意思はないでしょう…自分で決められるでしょう‥」
「確かにね‥」
あなたは神の山のほうを向いて立ったままだ
気に入らない言葉を僕が発するとあなたは消えてしまうかもしれない
でも、僕はあなたとの今のこの時間を大事にしたい
あなたに恋した中学生時代には持てなかった時間だ
 
「ねえ、優子さん」
僕はあなたの名前を呼んだ
「今の君から、僕を見てどう?ちょっとは男として成長したかな」
あなたは振り向いた。
秋色のワンピースに包まれたその顔形は中学生時代の
あなたが幸せだった時代の姿だ
「成長?」
そういったかと思うと大きな声で笑いだした
「あなたが成長なんてしているはずないでしょ」
「そうかなぁ・・この頃、商売も手広くやっているんだけど」
「商売も何も、いまこうしてカメラを抱えて線路際に来ていること自体
あなたがあの頃のまんまってことよね」
そういってあなたはさらに声を上げて笑う
まるで中学生時代の天真爛漫なあなたを見ているようだ

遠くから機関車の警笛が聞こえ、僕はカメラのファインダーを覗く
ふと、横を見るとあなたが興味深そうに僕を見ている
「ほんとに列車が好きなのね・・」
「うん・・・」
やがてファインダーの中に沢山のコンテナ貨車を牽いたEF66形機関車が現れ
僕は夢中でシャッターを切る
列車が去ってまた秋風の吹く土手、オレンジの光が辺りを占め始めている

もう少しであなたを撥ねたあの貨物列車の時刻だ。

「一つだけ、わたし、あなたに謝らなきゃ・・」
「なにを??」
「あなたの好きな列車を傷つけたこと、列車に恨みはないからね」

 陽が沈む・・この列車の牽引機は、あの時と同じようにEF210のはずだ
遠くで踏切が鳴る
僕はカメラのファインダーを覗く
あなたが横で、カメラを扱う僕を見てくれているような気がする
呆れたような、不思議そうな表情で

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